不安症(不安障害)とは

日常生活のさまざまな場面で緊張したり、不安を感じることは誰もが経験することです。

不安症は、不安や心配を必要以上に感じてしまい、日常生活に問題が生じていたり、生きづらさを感じていたりする病気です。また、こころの不調だけではなく、頭痛や肩こり、食欲不振、不眠などさまざまな身体症状を伴うこともあります。

ひとくちに不安障害といっても様々な病気があるので、代表的なものをご紹介します。

限局性恐怖症

高いところや狭い場所、血液や注射、動物など、特定の場所やモノに対して強い恐怖や不安を感じる病気です。イメージするだけで恐怖を感じ、パニック発作を起こす場合もあります。

社交不安症(社交不安障害)

一般的に対人恐怖症、赤面恐怖症といわれる病気です。人に注目されることや人前で失敗すること、恥ずかしい思いをすることが怖くなる病気です。人と話すことだけでなく、人が多くいる場所(電車やバス、繁華街など)にも強い苦痛を感じることもあります。

パニック症(パニック障害)

身体の病気はないのに、突然理由もなく激しい不安に襲われて、心臓がドキドキする、めまいがしてふらふらする、呼吸が苦しくなるといった状態となり、場合によっては死んでしまうのではないかという恐怖を覚えることもあります。このような発作的な不安や体の異常な反応は「パニック発作」と呼ばれており、パニック発作がくりかえされる病気をパニック障害と呼んでいます。

全般性不安症(全般性不安障害)

仕事や学校、家族、生活環境など、生活上のいろいろなことが気になり、極度に不安や心配になる状態が半年以上続きます。精神的な症状だけではなく、落ち着かない、集中できない、頻脈や発汗、睡眠障害などの自律神経症状や、頭痛や肩こりなどの身体症状も見られます。

不安症(不安障害)の漢方治療

不安症(不安障害)の漢方の捉え方

漢方医学では、こころとからだは表裏一体であり、お互いに深く関わり合っていると考えます。

必ずしも心だけの問題で強い不安や心配を感じているわけではありません。

また、こころとからだの関係はとても複雑で繊細なものです。一つだけの原因で不調になっていることは少なく、複数の原因が関与している場合がほとんどです。

ここでは、不安症ととくに関わりの深い肝(かん)、気(き)、血(けつ)を中心に解説いたします。

リズムを整える肝(かん)

五臓

漢方医学では、内臓を肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎(じん)の5つに分類します。

ここでいう肝は、西洋医学的な肝臓とは異なります。

肝のはたらき
  • 自律神経を調節する
  • ストレスを解毒する
  • 体内の血液量を調節する
  • 生理を調節する
  • 筋肉の動きを調節する

ざっくりといえば、肝(かん)には調節するはたらきがあるとご理解ください。

不安や心配、緊張を感じること自体は人間としてごく当たり前のことです。それ自体はなにも悪いことではありませんし、生命を守るための防衛本能の一種でもあります。横断歩道では車が来ていないか右を見て左を見て、もう一度右を見てから渡るものです。

問題は、必要以上に大きく不安を感じすぎている、あるいは不安を感じなくてもよいものまで不安を感じてしまっているということです。

漢方の治療では、不安や心配、緊張などの感情を無理やり抑え込むのではなく、肝の機能を正常化することで、本来のおだやかな感情のリズムを取り戻していきます。

気(き)と血(けつ)はこころとからだのエネルギー

気血水

漢方医学では、人のからだは気(き)、血(けつ)、水(すい)の3つでできていると考えます。

気血水はお互いに関わり合い、支え合いながら心身の健康を維持しています。

気は生きる力、生命のエネルギー

気(き)は、気持ちの「気」であり、元気の「気」でもあります。

気が不足するとだるさ、眠気、食欲低下など、気の流れが悪くなると、イライラしやすい、落ち込みや不安を感じやすいなどの症状が現れます。

不安になりやすい人や緊張しやすい人のことを、「気が小さい」と表現することがあります。

まさにこの言葉通りで、心身のエネルギーである気(き)が不足し、小さく縮こまると、こころに余裕がなくなり、過剰に不安や心配、あるいは緊張を感じてしまいます。

漢方の体質改善では、人参(薬用人参)や白朮(びゃくじゅつ)などの生薬で不足した気を補うことで、気持ちを大らかにすることができます。

また、柴胡(さいこ)や蘇葉(そよう)などの生薬で気のめぐりを整えることで、ストレスを受け流す力が高まり、不安や緊張を長引かせない、持ち越さないようになります。

血は全身をめぐる栄養物質、思考の源

血(けつ)は、こころとからだへ栄養を届ける赤い液体です。

血が不足すると貧血傾向や皮膚の乾燥、動悸、不安感、不眠など、血のめぐりが悪いと肌荒れや便秘、頭痛などの症状が現れます。

漢方の血(けつ)は、西洋医学的な血液と同じようにからだのすみずみまで酸素と栄養を届けますが、それだけではなく、こころ(精神)にも栄養を届けるはたらきがあります。

とくに女性は月経があるため血が不足しがちです。

血が不足し、こころに栄養が不足すると、精神が不安定になり特別な理由がないのに不安を感じたり、必要以上に心配を感じたりするようになります。

不安を感じやすい性格、緊張しやすい性格は、必ずしも周囲の環境や性格的な問題だけではなく、単純な血の不足であることも少なくはありません。

不安症(不安障害)の漢方相談で、精神状態とは一見関係なさそうな月経の様子やお肌の状態を伺うのはこのためです。

不安症(不安障害)を改善する漢方薬

漢方薬による不安症の改善の目標は、不安な気持ちを無理やり抑え込むことではなく、本来のこころの動きを取り戻すことにあります。

漢方薬を用いる最大のメリットとして、依存性がないという点があります。また、向精神薬にありがちな眠気や吐き気などの副作用が起こりにくいというメリットもあります。

一般的な不安症の漢方治療では、

  • 柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
  • 香蘇散(こうそさん)

などの漢方薬が使用されます。

不安症(不安障害)は、その症状の繊細さゆえに慎重に漢方薬を選ぶ必要があります。

まずはゆっくりとお話をお聞かせください。ていねいに体質をや気血水のみだれを読み解いて、必要以上に感じてしまっている不安や心配、緊張を改善していきましょう。