起立性調節障害とは

起立性調節障害は、思春期前後の小児に多くみられ、

  • 起立時にめまい、立ちくらみ
  • 失神
  • 朝起きれない
  • 倦怠感(だるさ)
  • 動悸や息切れ
  • 頭痛
  • 乗り物酔いをしやすい

などを主な症状とする自律神経失調症の一種です。

症状は午前中に強く、午後には軽減する傾向があります。

症状が重い場合には、学校へ行くことが出来ずに不登校や引きこもりにつながることもあります。

起立性調節障害の原因

西洋医学的には、起立性調節障害は自律神経の乱れによる不調とされています。

自律神経が乱れる原因として、

  • 遺伝的な要素
  • 思春期によるホルモンバランスの不調
  • 学校や家庭のストレス

などが考えられています。

起立性調節障害は身体的な病気であり、やる気がないわけではなく、怠けているわけでもありません。

起立性調節障害の漢方治療

起立性調節障害の漢方のとらえ方

①水毒(すいどく)

漢方医学では、人のからだは気(き)、血(けつ)、水(すい)の3つでできていると考えます。

これらのうち、水(すい)はリンパ液や唾液、汗や尿、涙など、体内にあるさまざまな水分を指します。

水のめぐりが悪くなり、流れが滞っている状態を水滞(すいたい)といいます。

水滞(すいたい)の症状
  • からだが重く、むくみやすい
  • 頭が重く、痛い
  • めまいがする
  • 乗り物酔いをしやすい
  • 天気が悪い日に調子をくずしやすい
  • 軟便や下痢をしやすい

一般的な書物やインターネット上の記事では、起立性調節障害は水滞であるとして、水分代謝を高めてめまいを改善する苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)や半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などの漢方薬がすすめられています。

実際に苓桂朮甘湯で起立性調節障害が改善したという症例は多くありますが、一方でまったく効果を感じなかったという方も多くおられます。

当薬局では、水滞は起立性調節障害の原因になりうるが、必ずしも水滞だけが原因ではない(むしろ水滞が原因ではない場合が多い)と考え、一人ひとりに最適な改善方法を検討し、ご提案していおります。

②自律神経の乱れ

自律神経には、日中の活動的な時に働く交感神経(こうかんしんけい)と、夜間やリラックスしているときに働く副交感神経(ふくこうかんしんけい)の2種類があります。

交感神経と副交感神経は、まるでシーソーのようにお互いにバランスをとりながら、からだのリズムを調節しています。

自律神経が乱れるということは、からだのリズムが乱れるということです。

朝になっても起きれない、血圧が上がらない、やる気はあるのにからだが思うように動かないなどの不調が引き起こされます。

漢方医学では、内臓を肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎(じん)の5つに分類します。

当薬局では、起立性調節障害は肝(かん)のトラブルであると考えています。

ここでいう肝は、西洋医学的な肝臓とは異なります。

肝のはたらき
  • 自律神経を整える
  • ストレスに関連
  • 体内の血液量を調節する
  • 生理を調節する
  • 筋肉の動きをコントロールする

肝(かん)が正常に機能することで、自律神経は正常に機能します。

自律神経が正常に機能するということは、アクティブな交感神経とリラックスの副交感神経がスムーズに切り替わるということです。

朝になればスムーズに就寝中の副交感神経から、交感神経に切り替わる。これにより朝起きれるようになるのです。

③ストレス・不安感

起立性調節障害は身体的な病気であり、精神的な疾患ではありません。

しかしながら、起立性調節障害による不調が長引くことで、精神的な不安感を抱くことは少なくありません。

・思うように動けないもどかしさ。

・学校へ行けていないことによる孤独感や、勉強についていけなくなるのではないかという不安。

・調子が良い時でも、学校へ行くと周りの友人や先生たちから何か言われるのではないかという不安感。

・このままずっと体の調子が悪いままではないかという不安感。

たとえご家庭や学校環境などに問題がなくても、体の調子が悪いということそのものが不安や焦りの感情を招いてしまうものです。

肝のはたらき
  • 自律神経を整える
  • ストレスに関連
  • 体内の血液量を調節する
  • 生理を調節する
  • 筋肉の動きをコントロールする

先ほどは、肝(かん)の機能を自律神経の面から解説いたしましたが、肝の重要な機能として、ストレスや不安感を処理するという働きもあります。

適度なストレスや不安感であれば肝が処理できますが、不調が長引き、ストレスや不安感が重なると肝は処理しきれず、やがて肝の機能そのものが低下し、さらなる起立性調節障害の悪化につながってしまいます。

この点では、起立性調節障害は精神疾患ではないものの、ストレスにより症状が悪化するという西洋医学的な考え方とも合致します。

こころとからだは表裏一体です。

起立性調節障害の改善においては、とくに症状が半年以上と長引いている場合には、不安や緊張、焦りを解除してあげることが欠かせません。

起立性調節障害を改善する漢方薬

起立性調節障害の治療では、西洋医学であればミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジン)が、漢方薬であれば苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)が第一選択薬とされています。

苓桂朮甘湯は水分代謝を整え、めまいや立ちくらみを改善する漢方薬です。

同じくめまいや立ちくらみがあり、胃腸が弱い方には半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)が処方されることもあります。

苓桂朮甘湯は優秀な処方ではありますが、よく効く子と効かない子の差がはっきりしている印象です。

当薬局へご相談される方の大半は、すでにミドドリン塩酸塩や苓桂朮甘湯を服用したけれど起立性調節障害の症状が改善されなっかたという方です。

そのような場合には、単純な水毒(すいどく)ではなく、肝(かん)トラブルととらえ、自律神経や精神面へのアプローチをしていく必要があります。

代表的な漢方薬としては下記の処方があげられます。

・柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
・柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
・柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
・加味逍遙散(かみしょうようさん) など

これらの漢方薬を年齢や症状、体質に合わせて適宜選択し、場合によっては複数の漢方薬を組み合わせながら起立性調節障害の症状を改善し、不調を繰り返さないための体質改善を進めていきます。

起立性調節障害は、その名の通り「調節」の問題です。

漢方医学は切ったり貼ったりといった外科的処置は得意ではありませんが、「調節」は最も得意とする分野です。

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