気象病とは
- 低気圧が近づいてくると具合が悪くなる
- 雨の日には頭が痛くて吐き気がする
- 気温の変化についていけない
- 天気が悪い日は首のこりがひどくなる
- 季節の変わり目に体調を崩しがち
気象病とは、天気や気候などの変化が原因で引き起こされるさまざまな不調の総称です。
本記事では、気象病の中でもご相談の多い、低気圧が近づいてきた時や雨天時の頭痛を中心にお話いたします。
低気圧が近づくと自律神経が乱れる
自律神経には、日中の活動的な時に働く交感神経(こうかんしんけい)と、夜間やリラックスしているときに働く副交感神経(ふくこうかんしんけい)の2種類があります。
交感神経と副交感神経は、まるでシーソーのようにお互いにバランスをとりながら、からだのリズムを調節しています。
低気圧が近づいてくると、耳の中にある内耳の前庭器官で気圧の変化を感じ取ります。このとき、脳は急激な気圧の変化を「ストレス」として認識し、アクティブな交感神経が興奮してしまいます。その結果、心拍数の増加や血圧の上昇などの症状が現れます。
あるいは逆に、低気圧の影響で副交感神経の働きが高まってしまう場合もあります。副交感神経が必要以上に働いてしまうため、だるさや眠気、気持ちの落ち込みを感じてしまいます。これは気圧が低下したことにより、空気中の酸素濃度が低下しており、本能的に活動量を抑えようとしているこのではないかと考えられています。本来、日中は交感神経が活発な時間であるにもかかわらず、副交感神経が活発になってしまい、自律神経のバランスが大きく乱れてしまいます。
低気圧が頭痛を起こすメカニズム
1.セロトニンによる血管の収縮と拡張
脳内では気圧の変化によるストレスに耐えるためにセロトニンというホルモンが大量に放出されます。セロトニンは血管を収縮させる働きがありますが、その後セロトニンが枯渇すると血管は拡張してしまいます。拡張した血管が三叉神経を刺激することで頭痛を引き起こします。
2.気圧の低下による血管拡張
普段あまり意識することはありませんが、私たちのからだは常に大気圧(空気の重さによる圧力)を受けています。その力は、1気圧(1013hPa)において1㎠当りの面積に約1kg、1㎡に換算 すると10tの重さがかかっている状態に相当します。 私たちのからだが空気の重さで押しつぶされないのは、からだの内側から同じ力で押し返しているからです。
低気圧が近づくと、空気からの圧力が低下します。その結果、からだが内側から押し返す力の方が大きくなります。これにより、血管が通常よりも拡張してしまい、頭痛やめまいなどの不調を引き起こしてしまいます。
3.過剰な水分の停滞
全身の隅々までめぐる血液の流れは、酸素や栄養を送り届けるだけでなく、全身の水分代謝にも大きく関わっています。
血液中の水分(血漿:けっしょう)は、毛細血管の壁からしみ出して組織液となり、細胞に栄養や酸素を送り届けます。その後、組織液は不要になった老廃物とともに毛細血管引き戻され、一部はリンパ液となりリンパ管へ運ばれます。血液と組織の間での水のやり取りを水分代謝といいます。
低気圧の影響で血管が拡張あるいは収縮すると、血液の流れも乱れ、水分代謝が乱れます。その結果、からだのある部位では水の排出が十分に行われず、浮腫(むくみ)が生じます。からだの傾きや回転を感知する内耳に浮腫が生じるとめまいや立ちくらみを起こします。
水分代謝の乱れにより、水分が過剰に停滞して不調を起こしている状態を、漢方では水滞(すいたい)といいます。
また、日本では低気圧が近づくと、多くの場合は湿度が上がり、天気は雨になります。空気中の湿度は肌や呼吸器を通してからだの中へと侵入してきます。体内に侵入してくる湿気を漢方医学では湿邪(しつじゃ)といい、水滞の原因のひとつであると考えます。
※正確には、水滞は水の偏在を指しますが、本記事では理解しやすさを優先し、水の過剰な停滞と表現しています。
低気圧による頭痛の漢方治療
残念ながら、低気圧の接近を回避する方法はありません。また、気圧の変化を感知するという人間が本来持っている機能を失うわけにもいきません。
低気圧により受けるからだの影響を最小限にする、体質改善により低気圧に負けない身体づくりを目指していくことがポイントとなります。
低気圧の不調は水(すい)のトラブルと考える
漢方医学では、人のからだは、気(き:生命のエネルギー)、血(けつ:栄養の運搬)、水(すい:全身を潤す)の三つの要素で出来ていると考えます。
気血水のうち、低気圧による不調ともっとも関係が深いのが水(すい)です。
低気圧の影響で水分代謝が低下したところへ、空気中の湿気が体内に侵入してくることで、からだの中の水分が過剰になり、頭痛やめまい、吐き気、だるさなどの症状を引き起こすと考えます。
水(すい)のめぐりを整え、低気圧の頭痛を改善する漢方薬
水のめぐりを改善する漢方薬の代表は、五苓散(ごれいさん)です。
五苓散は、水分代謝を高める猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、蒼朮(そうじゅつ)の4種類の生薬と、からだを温め代謝力を高める桂皮(けいひ)が配合された漢方薬です。
五苓散は体質改善に用いることもありますが、どちらかと頓服的に服用することで力を発揮する漢方薬です。実際に頭痛がしてから服用するよりも、「頭が痛くなりそう」の段階で服用すると効果的です。
―五苓散の効能・効果―
胃部に水分停滞感あり、口渇し、尿量減少するもの、また頭痛、発熱、眩暈、悪心、嘔吐、下痢、浮腫などを伴うもの。
急性胃腸炎、胃拡張、糖尿病、癲癇、船暈病、急性慢性腎炎、ネフローゼ、急性膀胱炎、小児の下痢、吐乳,暑気当り、二日酔。
注1)「眩暈 げんうん」とはめまいを指します。
注2)「癲癇 てんかん」とは発作的に痙攣・意識喪失などの症状を現す疾患を指します。
注3)「船暈病 せんうんびょう」とは船酔病を指します。
体質改善により、水分代謝力をあげる漢方薬として当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などがあります。
当薬局では、当帰芍薬散などで体質のベースアップを図りながら、低気圧の接近時には五苓散を併せて服用する方法をおすすめしております。
- 当帰芍薬散:冷え性でむくみやすく、月経痛がある方に。
- 苓桂朮甘湯:立ちくらみしやすく、不安感がある方に。
- 半夏白朮天麻湯:胃腸が弱く、回転性のめまいを起こしやすい方に。
ストレスや自律神経を整え、低気圧による頭痛を改善する漢方薬
本記事の前半で、①低気圧は脳で「ストレス」として認識される、②自律神経が乱れる、③血流や水分代謝が乱れ頭痛が起きる、という反応をご説明いたしました。
漢方では、最終的に頭痛やめまいを引き起こす原因は水(すい)であると考えますが、その前段階であるストレスへの反応性や、自律神経を整えておくことも大切な改善ポイントであると言えます。
代表的な漢方薬として、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)や、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などがあげられます。
これらの漢方薬の効能・効果には必ずしも「頭痛」の記載があるわけではありませんが、体質全般を整えることで、低気圧の接近に対して柔軟に対応できるようになります。
下記のページもご覧ください。
おわりに
明鏡堂では、低気圧による頭痛には漢方薬による体質改善が有効であると考えています。
梅雨時や台風の季節には、低気圧頭痛のご相談が多く寄せられますが、正直なところ、「あと1か月早く来てくれれば、もっと楽にしてあげられたのに。」と感じることが少なくありません。
体質改善にはどうしても時間がかかります。早めのご相談をおすすめします。