日常の中でついついイラっとしたり、不安を感じたり、あるいは緊張したりすることはありますよね。これらの感情はわたしたち人間に備わっている本来の正常なこころの動きであり、こころとからだを守るための一種の防衛本能でもあります。
イライラすること自体は正常な反応ですが、イライラした感情をコントロールできずに他人を傷つけてしまう、イライラして自分自身が苦しくなってしまう、こころがイライラした感情に支配されて日常生活に支障が出ている、このような場合には、やはり穏やかなこころを取り戻すための治療が必要といえます。
不安感や気持ちの落ち込みについても同様です。日常生活に支障をきたすようであれば、やはり改善していく必要があります。
ストレス解消法は効かない?
インターネットで「ストレス解消法」と検索してみると、いろいろな情報が出てきますね。
- ゆっくりと寝る
- 映画鑑賞や読書で泣いたり笑ったりする
- 呼吸に集中しながら深呼吸する
- ヨガやストレッチ
- アロマテラピー
- 創作・作業に没頭する
- 日光浴をする
もうすでに試してみた方もおられることでしょう。
気持ちを落ち着かせたり、気分転換をさせてくれるこれらの方法は、こころが疲れているときには確かに有効な方法です。職場や学校の人間関係のトラブルや親しい方との別れ、難しい仕事で常に緊張感が高い状態の方などにはぴったりの方法とも言えます。
一方で、これらのストレス解消法を試したけど効果を感じなかった、なんとなく違うような感じがした、という方もおられるのではないでしょうか。
当薬局へはメンタルの相談が多く寄せられていますが、不安やイライラを訴えておられるにもかかわらず、「とくに思い当たることはありません。」「学校の友人関係も良好です。」「仕事が忙しすぎるわけでもありません。」といったケースも少なくありません。
外的なストレス要因が見当たらないのに、なぜ精神的な不調を感じるのでしょうか。
その答えが、「こころ」と「からだ」のつながりにあります。
心と身体は表裏一体
すごくシンプルに考えてみてください。
インフルエンザで39度の熱が出ているときに、「宿題やったの?」って言われたらイライラしますよね?
食あたりで下痢しているときに、楽しい気持ちになれますか?
からだの病気とこころの病気は別々に考えられがちですが、実際にはとても深いかかわりがあります。
人間関係などの外的なストレス要因がないにもかかわらず、イライラや不安を感じる。この原因は、こころの不調ではありません。からだ側のトラブルが原因で、それが精神症状として現れているのです。
女性ホルモンと血の道症(ちのみちしょう)
女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)があり、そのバランスは月経周期に合わせて大きく変動しています。女性ホルモンの変動は子宮や卵巣を正常に機能させるだけでなく、精神面に対しても大きな関わりがあります。
こころとからだを一つと考える漢方医学では、1000年以上前から女性の月経と精神症状の関わりが重視され、血の道症(ちのみちしょう)として治療されてきました。
月経、妊娠、出産、産後、更年期などの女性ホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことです。
血の道症は、女性ホルモンが未熟な中学生や高校生(初潮~18歳ごろ)と、女性ホルモンが低下し始める更年期世代(45歳~)でとくに多くみられます。
- 気持ちが不安定になる要因が見当たらない
- 月経痛が重く、毎回痛み止めが必要
- 月経周期が乱れやすい
このような場合には、いわゆる精神疾患だけではなく、身体症状としての血の道症を疑う必要があります。
血の道症を改善する漢方薬
血の道症の治療では一般的に、
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 温経湯(うんけいとう)
- 女神散(にょしんさん)
- 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
などの漢方薬が使用されます。
たしかに血の道症の改善において優秀な処方ですが、複雑化する現代社会、複雑化する人間関係において、不調の原因が血の道症だけということは稀です。残念ながら、上記の漢方処方だけで改善するケースはそれほど多くありません。
文章が長くなってしまうため、ここですべてをお話しすることはできませんが、
- 不安神経症(精神的疾患)と血の道症(身体的疾患)の両方
- 慢性的な下痢が原因で血の道症になっている
- 冷えが血の道症を増悪させている
など、様々な角度から体質を分析して改善していく必要があります。
いずれにしましても、女性の精神不調と月経はとても大きく関係しています。必ずしも、貴女のこころが弱いからではありません。大半はからだの不調が精神面に現れているだけです。
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