睡眠相後退症候群(DSPS)とは
朝起きれない、夜になっても眠くならない。
その原因の一つが、体内時計の乱れにより睡眠のリズムが後ろの方向にずれてしまう睡眠相後退症候群(DSPS)です。
ヒトの体内時計の周期は約25時間であり、地球の周期とは約1時間のずれがあります。このずれを修正できず、睡眠・覚醒リズムに乱れが生じたために起こる睡眠の障害を概日リズム睡眠障害と呼びます。
睡眠相後退症候群(DSPS)は、概日リズム障害の一種です。
睡眠相後退症候群(DSPS)の特徴は、「夜型人間」あるいは「宵っ張りで朝寝坊」などと表現されるように、なかなか寝付くことが出来ず、お昼ごろにならないと起きられないことです。
なかなか眠りに入ることができないため、不眠症と思われがちですが、睡眠の時間帯がずれているだけで睡眠時間は短くありません。「寝れない」ことと「起きれない」ことの両方が問題となります。
適切な時間に起きることが出来ないため、不登校になったり、就職しても朝起きられず、遅刻や欠勤を繰り返し、社会生活にうまく適応できないという問題も出てきます。また、気持ちの落ち込みや不安感などの精神症状や、立ちくらみがする、だるいなどの不調にもつながります。
睡眠相後退症候群(DSPS)の原因
生活リズムの乱れにより引き起こされます。
睡眠相後退症候群(DSPS)は、
- 部活動や学習塾で帰りが遅くなり、寝る時間も遅くなる。
- 夏休みなどに生活リズムが乱れ遅寝遅起きが定着してしまった。
- 深夜までゲーム、スマホを操作している。
など、生活リズムの乱れにより引き起こされます。
強い光でメラトニンが減少する
メラトニンは、脳内の松果体において生合成されるホルモンです。
体内時計に働きかけることで、覚醒と睡眠を切り替えて、自然な眠りを誘う作用があり、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。
メラトニンの分泌は主に光によって調節されています。
夜中に勉強や仕事で白色蛍光灯などの強い照明の中にいたり、スマートフォンやパソコンの画面から発生するブルーライトを浴びてしまうと、体内時計の働きが乱れてメラトニンの分泌が抑えられます。これが睡眠覚醒リズムが乱れる原因となります。
簡単に言えば、強い光のせいで脳が昼だと錯覚している状態です。
睡眠相後退症候群(DSPS)や思春期に多く見られる起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)の患者さんは朝起きられないため、学業や仕事に制限が生じます。その分を取り戻そうと、夜遅くまで頑張ってしまう方が非常に多くおられます。そのお気持ちはよく分かりますが、残念ながら睡眠相後退症候群(DSPS)や起立性調節障害(OD)の改善においては逆効果と言わざるをえません。
医学的に必要とされる睡眠時間は、成人でも7〜9時間、中・高校生は8〜10時間、小学生は9〜11時間と言われています。
中学生が朝7時に目覚めようとするのであれば、十分な睡眠時間を確保するためには夜の10時には寝ていないといけない計算になります。就寝時間が深夜1時であれば、朝の10時まで寝ていないといけない計算です。
脳とからだが朝の10時に起きようとしているのに、7時に起きようと思っても、そもそも睡眠時間が3時間も不足しているため起きれません。7時に無理やり起きたとしても、睡眠不足により、日中の眠気だけでなく、自律神経の乱れにもつながります。
睡眠相後退症候群(DSPS)と起立性調節障害(OD)
睡眠相後退症候群(DSPS)と同じように、朝起きることが出来ない疾患として起立性調節障害(OD)があげられます。
起立性調節障害は、思春期前後の小児に多くみられ、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。立ち上がったときに血圧が低下したり、心拍数が上がり過ぎたり、調節に時間がかかりすぎたりします。起立時にめまいや立ちくらみ、失神、朝起きれない、倦怠感(だるさ)、動悸や息切れ、頭痛、乗り物酔いをしやすいなどの症状がみられます。
睡眠相後退症候群(DSPS)と起立性調節障害(OD)は症状が似ているため、起立性調節障害を疑って病院を受診したところ、実は睡眠相後退症候群だったということも少なくありません。
また、起立性調節障害(OD)をきっかけに生活リズムが乱れ、睡眠相後退症候群(DSPS)になるケースも多くあります。起立性調節障害のおよそ7割が睡眠相後退を伴っているといわれています。
一方で、睡眠を専門とする医師の中には、日本で起立性調節障害(OD)と呼ばれ、小児科で対応されている患者さんの大半は概日リズム睡眠覚醒障害ではないかという意見も多いようです。
睡眠相後退症候群(DSPS)の漢方治療
睡眠相後退症候群(DSPS)の改善において最も大切なことは、生活リズムの見直しです。
先にも述べましたが、医学的に必要とされる睡眠時間は、成人7〜9時間、中・高校生は8〜10時間、小学生は9〜11時間です。当たり前のようですが、「早く起きるためには、早く寝る。」これが一番大切なことです。
夜の9時以降にパソコンやスマートフォンの画面を見ないことも大切です。画面から発生する強い光により、睡眠ホルモンであるメラトニンが減少してしまい、適切な時間に眠ることが出来なくなります。
漢方医学では、太陽のリズムに体のリズムを合わせることで、睡眠と覚醒をスムーズにする酸棗仁湯(さんそうにんとう)を用います。
酸棗仁湯は一般的には不眠症の薬とされていますが、本来は不眠症と嗜眠症(眠りすぎ)の両方に使える漢方処方です。概日リズム(体内時計)を修正し、太陽のリズムに合わせた生活が出来るようになるため、時差ボケの薬としても有名です。
また、近年では動物性生薬である羚羊角(れいようかく)を用いた製剤に、睡眠相後退症候群(DSPS)の改善効果があることも分かってきました。
おわりに
当薬局には、朝起きることが出来ないため学校へ遅れていく、あるいは不登校になっている方の相談が多く寄せられています。
学校へ行くことがすべてとは思いませんが、やはり子どもたちには明るく健康でいてもらいたいものです。
まずは、お気軽にご相談ください。
一緒に頑張りましょうね。