頭痛とは

頭痛はごく日常的に経験する症状のひとつです。

15歳以上の日本人の約40%に当たるおよそ4000万人が、慢性的な頭痛に悩まされているとされています。

頭痛には、片頭痛や緊張型頭痛といった命に別条のない「一次性頭痛(慢性頭痛)」と、身体に何か原因があって引き起こされる「二次性頭痛」があります。

二次性頭痛は、くも膜下出血、脳出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、髄膜炎・脳炎などによりひきおこされる頭痛です。また、絶食や脱水、二日酔い、飛行機に乗った時などの頭痛も二次性頭痛に分類されます。

一次性頭痛は、「二次性頭痛ではない」頭痛を指します。二次性頭痛には大きく分けて「偏頭痛」「緊張型頭痛」「群発頭痛」があります。

本記事では、二次性頭痛(慢性頭痛)についてお話を進めていきます。

慢性頭痛の種類と症状

偏頭痛

【偏頭痛の症状】

突然、心臓の鼓動に一致したズキズキと脈打つように痛みがおきます。

多くは、こめかみから目の辺りにかけて頭部の片側が痛みますが、痛む場所が移動したり、両側が痛んだり、頭全体が痛くなったりすることもあります。

拍動性の強い痛みに加え、吐き気や嘔吐が起こることもあります。

また、光・音・気圧や温度の変化に対して敏感になることも多くあります。

発作が起きる前に、視野の一部がまぶしくなったり、周囲のものが光で縁取りされて見えたり、星のような形が見えるなどの前兆を感じることもあります。

【偏頭痛の原因】

脳血管の一部に攣縮(けいれんと収縮)が起き、その後に血管が拡張することが原因ではないかと考えられていますが、はっきりとした原因は解明されていません。

環境の変化や飲酒、特定の食べ物、ストレスなどの刺激が発作の引き金になると言われています。

また、血管を拡張・収縮させるポリフェノールなどが含まれるオリーブオイル、チーズ、赤ワインなどの摂り過ぎも、片頭痛の引き金になることがあります。

緊張型頭痛

【緊張型頭痛の症状】

頭が締め付けられるような鈍痛が続きます。

午後になるとひどくなる傾向があり、偏頭痛とともにあらわれる混合型もあります。

【緊張型頭痛の原因】

頭部や首周りの筋肉の緊張が原因です。

ストレスがきっかけとなって起きることが多く、生真面目な人、律儀な人、完全主義者などに起きやすい傾向があります。中年世代に多く見られます。

群発頭痛

【群発頭痛の症状】

1日に1回から数回、突如、激しい頭痛が数十分から数時間続きます。

痛みは片側で起こり、「目の奥が焼けるような」「キリで突かれたような」「頭の中をかき回されるような」激しい痛みに襲われます。顔面の痙攣、紅潮、発汗、鼻水などを伴うこともあります。

こうした頭痛が数週間から数か月間続き、数か月から数年たつと再び同じ頭痛が起こってきます。

20代~50代の男性によくみられます。

【群発頭痛の原因】

原因は不明で、治療法も見つかっていません。

西洋医学的な治療と問題点

偏頭痛に対しては、一般的に頭痛の発作を抑えるイミグラン、ゾーミック、レルパックス、マクサルト、アマージなどのトリプタン系と呼ばれる薬が第一選択薬として処方されます。

緊張型頭痛に対しては、フルボキサミンやパロキセチンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤とよ呼ばれる抗不安薬や抗うつ薬が用いられます。

また、ブルフェン、ロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)と呼ばれる一般的な痛み止めが処方されることもあります。

決してこれら西洋医学の薬を否定するつもりはありませんが、一方で思うような効果が得られず、むしろ薬の副作用に悩まされている人がいるのも事実です。

トリプタン系頭痛薬では、中枢副作用(めまい、眠気、倦怠感)、 悪心・嘔吐、胸部圧迫感、息苦しさ、体の痛みなどの副作用が報告されています。

非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)では、胃粘膜障害、出血傾向、腎障害、アスピリン喘息、インフルエンザ脳症増悪などの副作用が報告されています。

また、慢性的に頭痛薬を服用することで薬の量が増え、効き目が持続する時間も短くなり、やがては薬そのものによって頭痛が誘発される「薬物乱用頭痛」につながります。

何よりも、西洋医学的な頭痛薬はあくまで一時的に頭痛を緩和するだけで、根本的な解決にはつながらないという問題があります。

漢方薬による偏頭痛治療の考え方

気血水の滞りが頭痛を引き起こす

一言に、「頭痛」と言っても、その原因は様々です。

身近なところでは、かぜによる頭痛、ストレスによる頭痛、気圧の変化による頭痛、寝不足による頭痛などがあります。

同じ頭痛だからと、一律に同じ痛み止めを出すのではなく、その原因に合わせて個別に治療方針を考えていくのが漢方医学の特徴です。

気血水

漢方医学では、気(き:気持ちやエネルギー)、血(けつ:栄養を届ける液体)、水(すい:全身を潤す液体)の3つに分類して心身の健康状態を考えていきます。

漢方では古来より「不通即痛(通ぜざれば、すなわち痛む)」という考え方があります。簡単に言えば、血でも水でも気(気持ち)でも体内で何らかの滞りがあれば、そこに痛みが出るという意味です。

雨の日に頭痛が悪化しやすい偏頭痛では、からだの中の水(すい)のめぐりが悪いことが頭痛の原因であると考え、水分代謝を高める漢方薬を用います。代表的な漢方薬として、五苓散料(ごれいさんりょう)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)があります。

ストレスと関係の深い緊張型頭痛では、気(き)のめぐりが悪さが頭痛を引き起こしていると考え、気のめぐりを改善し、ストレスの影響を軽減することで頭痛の改善を図ります。気のめぐりをととのえ、筋肉の過緊張を改善する漢方薬として抑肝散料加芍薬黄連(よくかんさんりょうかしゃくやくおうれん)四逆散料(しぎゃくさんりょう)があります。

月経周期に関連して頭痛が出る方は、女性ホルモンのバランスを整え、血(けつ)のめぐりを改善することが頭痛体質の改善のポイントとなります。当帰芍薬散料(とうきしゃくやくさんりょう)加味逍遥散料(かみしょうようさんりょう)桂枝茯苓丸料(けいしぶくりょうがんりょう)などが頻用されます。

体質全体から頭痛の原因を考える

頭痛の直接的な原因は、気血水の滞りです。

しかし、五苓散や加味逍遥散など、気血水の視点からは最適と思われる漢方薬を服用しても、思うように頭痛の改善がすすまないという方も少なくありません。

このような場合には、もう一歩踏み込んで、「なぜ血のめぐりが悪いのか?」、「なぜ水の滞りが改善出来ないのか?」を考えていかなければなりません。

実際の例をあげてみますと、

胃腸が弱く、食事から十分な気(エネルギー)を生み出せない。気が不足し、気の流れに勢いが出ないために滞る。その結果としてストレスの影響を受けやすく頭痛がする。この場合、本当に必要なのは気のめぐりを整える漢方薬ではなく、胃腸を丈夫にする漢方薬といえます。

加齢に伴い新陳代謝が低下すると、気血水のめぐりも低下していきます。過労や連日の夜勤、大きな手術などにより実年齢以上に、心身の老化が進んでしまうことがあります。この生命力まで消耗した状態を、腎精(じんせい)の不足といいます。鹿茸(ろくじょう)や熟地黄(じゅくじおう)などの腎精(生命力)を補う生薬が配合された処方、いわゆるアンチエイジングの漢方薬で気血水の流れを取り戻すことが、慢性的な頭痛の緩和につながります。

雨天時の頭痛に、水分代謝を高める五苓散(ごれいさん)を服用したが、思うように効いてくれない。この場合は、「どうしたら水が流れやすくなるか」という視点が必要です。自然界を考えると、水は冷えると氷になり動きません。温めると水蒸気となり流動性が高くなります。もともと冷え性の方が、五苓散の力を最大限に発揮させるためには、からだを温める漢方薬と併用する工夫が必要です。

頭痛・偏頭痛の改善に用いる漢方薬5選

五苓散料(ごれいさんりょう)

偏頭痛の治療に頻用する漢方薬です。とくに低気圧が近づいているときや雨の日に頭痛が悪化する方に適しています。

日常的に足や顔がむくみやすい、お腹の中でちゃぷちゃぷと音がしている、軟便または下痢になりやすいなど、からだの中に水が過剰に溜まっている方の水分代謝力を改善するはたらきがあります。

呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

寒さにより悪化するタイプの偏頭痛に頻用する漢方薬です。

「苦みで頭痛を忘れる薬」と称されるほど飲みにくい薬ですが、冬場の偏頭痛治療には欠かせない重要な漢方薬です。

上記の五苓散料と相性がよく、当薬局では五苓散料と呉茱萸湯の併用を偏頭痛治療の基本としています。

釣藤散料(ちょうとうさんりょう)

緊張型頭痛に頻用される漢方薬です。

中高年で血圧が高く、抑うつ傾向のある方の頭痛に適しています。激しい頭痛よりも、頭が重い感じの頭痛によく効きます。

抑肝散料加芍薬黄連(よくかんさんりょうかしゃくやくおうれん)

イライラしやすい方の神経の高ぶりを改善する抑肝散(よくかんさん)に、筋肉の過緊張を緩める芍薬(しゃくやく)と、炎症や痛みを鎮める黄連(おうれん)を加えた処方です。

夜間の噛み締め(食いしばり)があるなど、無意識に力が入ってしまう方の緊張型頭痛に適しています。

清上蠲痛湯(せいじょうけんつうとう)

17世紀の『寿世保元』という書物に、「一切の頭痛を治する主方。左右、偏正、新久を問わず皆効あり。」と記載されている処方です。

目の奥が痛い、目の周囲から奥の方が痛い、という方の頭痛に効果があります。

「どんな頭痛にも効きそうだが、思ったほどは効かない。だが、不思議とこの処方でなければ効かない頭痛がある。」として、古来より漢方家の間でも議論される処方のひとつです。

いろいろな頭痛薬を試したけれども効果を感じなかった、という方は清上蠲痛湯を試してみるとよいでしょう。

おわりに

偏頭痛の痛みを一時的に抑えるだけでなく、偏頭痛を起こさない体質を目指すのが漢方治療です。

1日でも早くつらい偏頭痛から解放されるために、まずはお気軽にご相談ください。