以下に当てはまるときは、命にかかわる重大な心臓の病気の可能性がありますので、早急な受診・救急要請をおすすめします。

  • 胸が苦しい、痛い
  • 冷や汗が出る
  • 息が苦しい
  • 脈が極端に速い、あるいは遅い
  • 長い時間(30分以上がめやす)ドキドキが続いている
  • 意識が飛びそうになる

動悸とは

動悸とは、心臓の拍動を普段よりも強く感じたり、速く感じたりする症状のことを指します。
心臓の「ドキドキ」を強く、速く感じる状態です。

動悸は心臓の病気だけでなく、さまざまな原因で引き起こされます。

動悸の原因
  • 不整脈
  • 狭心症、心筋梗塞
  • バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
  • 低血糖
  • 貧血
  • 更年期障害
  • パニック障害
  • ストレス
  • 過剰な興奮や緊張状態(激しい労作や運動、精神的な緊張や興奮)
  • カフェインやアルコールの飲み過ぎ
  • 薬の副作用
  • 脱水
  • 睡眠不足

当薬局へは動悸のご相談も多く、

  • 仕事のプレッシャーで動悸がする
  • 人から注目される場面で緊張してドキドキする
  • テレビで事件や事故のニュースを見てしまうとドキドキが止まらなくなる
  • 家庭のトラブルで色々考えてしまい動悸がする
  • 生理前や生理中に動悸がする
  • 夜勤明けに動悸がする
  • 年齢とともに少し動いただけで動悸がするようになってきた

などのご相談が寄せられています。

動悸を改善する漢方薬

動悸の原因や症状の出るタイミングは一人ひとり異なるため、適している漢方薬も多岐にわたります。

本記事でそのすべてを解説することはできませんが、当薬局で使用頻度の高い漢方薬を中心にご紹介いたします。

桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

―効能・効果―

体力中等度以下で、疲れやすく、神経過敏で、興奮しやすいものの次の諸症:神経質、不眠症、小児夜泣き、夜尿症、眼精疲労、神経症

桂枝加竜骨牡蛎湯は、当薬局における動悸の相談でとくに使用頻度の高い漢方薬です。

不安感や緊張感により交感神経の働きが過剰になり引き起こされる精神的な動悸を改善します。

心身のバランスを整える桂枝湯に、精神安定作用と動悸を鎮める作用を持つ竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)を組み合わせた処方です。どちらかと言えばイライラよりも不安を感じやすく、何かと気を使いすぎて疲れてしまう方に適しています。

不安感や気持ちの落ち込みが強い場合は、香蘇散料(こうそさんりょう)と併用することで、さらなるリラックス効果が期待できます。

柴胡加竜骨牡蠣湯(黄芩)(さいこかりゅうこつぼれいとう・おうごん)

―効能・効果―

体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘などを伴う次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期障害、小児夜泣き、便秘

柴胡加竜骨牡蠣湯(黄芩)も桂枝加竜骨牡蛎湯と同じく精神的な動悸を改善する漢方薬です。

自律神経のバランスを整える柴胡剤(さいこざい)の一種で、竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)を組み合わせることで精神安定作用に優れます。

比較的体力に自信があり、不安感やイライラが強く、睡眠中に悪夢を見る方の体質改善に適しています。

柴胡加竜骨牡蠣湯(黄芩)には下剤が配合されているため、軟便気味の方には適していません。普通便または軟便気味の方は、柴胡加竜骨牡蠣湯(黄芩)と構成生薬の近い柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)をおすすめします。

定悸飲(ていきいん)

―効能・効果―

体力中等度で、ときにめまい、ふらつき、のぼせがあるものの次の諸症:動悸、不安神経症

漢方の古い書物には、定悸飲の効能は「奔豚(ほんとん)を治す。」と記載されています。奔豚とは豚が勢いよく走る様子を表しており、気が下腹から胸に突き上げてきて、急激な動悸や過呼吸、焦燥感などが現れる病気です。現代医学の病名では、パニック発作に近いものと考えられています。

比較的マイナーな漢方薬ですが、パニック発作による動悸に対応できる数少ない重要処方のひとつです。

※定悸飲は対面販売専用品です。

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)

―効能・効果―

体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏

苓桂朮甘湯は水分代謝を高めることで、体質的な弱さからくる動悸を改善する漢方薬です。

漢方では、めまいや立ちくらみは体内に過剰な水分が停滞することで引き起こされると考えます。それと同時に、胃のあたりに停滞した水分が心(しん:心臓)の働きを阻害するため動悸や息切れが起こります。

ストレスを感じやすく、足の冷えや、胃にぽちゃぽちゃと水が溜まっている感じの方に適しています。

また、苓桂朮甘湯は他の漢方薬のベースとなる基本処方のひとつでもあります。苓桂朮甘湯に李皮・呉茱萸・牡蛎の3種類の生薬を加え、パニック発作への効果を高めた処方が上述した定悸飲(ていきいん)です。苓桂朮甘湯に貧血を改善する四物湯(しもつとう)を合わせたものが、後述する連珠飲(れんじゅいん)になります。

連珠飲(れんじゅいん)

―効能・効果―

体力中等度又はやや虚弱で、ときにのぼせ、ふらつきがあるものの次の諸症:更年期障害、立ちくらみ、めまい、動悸、息切れ、貧血

貧血も動悸を引き起こす原因のひとつです。ここでは、貧血を「血が薄い」というイメージで読み進めてください。

心臓の動きが正常でも、血が薄いとからだの末端まで十分に酸素と栄養を届けることができません。そこで心臓はたくさん収縮することで、何とか酸素と栄養を届けようとします。これが貧血により動悸が起こる理由です。

連珠飲(れんじゅいん)は、水分代謝を高め動悸を改善する苓桂朮甘湯と、貧血による動悸を改善する四物湯(しもつとう)を合体した漢方薬です。

女性ホルモンを整える作用にも優れるため、更年期症状の一つとして動悸を感じている方には、とくにおすすめの漢方薬です。

当帰芍薬散料加人参(とうきしゃくやくさんりょうかにんじん)

―効能・効果―

体力虚弱で胃腸が弱く、冷え症で貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り

当帰芍薬散料加人参は、女性ホルモンの乱れによる動悸を改善する漢方薬です。

冷え性でむくみやすく、生理痛がある方の体質改善薬として有名な当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に、疲労回復や心臓の機能をサポートする作用のある人参(にんじん・薬用人参)を組み合わせた処方です。

炙甘草湯(しゃかんぞうとう)

―効能・効果―

体力中等度以下で、疲れやすく、ときに手足のほてりなどがあるものの次の諸症:動悸、息切れ、脈のみだれ

炙甘草湯は不整脈に用いる代表的な漢方薬で、別名を復脈湯(ふくみゃくとう)といいます。

体力や津液(体液)が減少し、心臓が正常に機能できなくなったことによる動悸や息切れを改善する処方です。うるおいの不足により、皮膚の乾燥や手足のほてり、便秘がある方に適しています。

やや胃もたれしやすい漢方薬ですので、胃腸が弱い方や軟便気味の方には適していません。

律鼓心(りっこしん)

―効能・効果―

どうき、息切れ、気つけ

加齢により心臓のポンプ機能が低下すると、1回の収縮で十分に血液を送ることが出来なくなります。そこで、心臓はたくさん動くことで全身の血流量を維持しようとします。これが、加齢に伴う動悸のメカニズムです。

律鼓心に配合されている蟾酥(せんそ)には、心臓の収縮力を高め、血液循環をよくする働きがあります。

少し動いただけで動悸がする方や、病院で検査しても異常は見つからず、「歳のせいですね。」と言われた方に適しています。

服用しやすい小さい丸剤で、1回分ずつ個包装されているため持ち運びにも便利です。バッグに1包入れておくとお出かけ時の急な動悸にも安心です。

※律鼓心は対面販売専用品です。

おわりに

一昔前は、「動悸、息切れ、気つけに」の某CMのイメージのように、動悸は高齢者の病気と思われていました。近年では、社会情勢の変化もあり、緊張や不安に伴う動悸や、女性ホルモンの乱れによる動悸が増えているように感じます。

動悸は、漢方が得意とする分野のひとつです。

まずは、お気軽にご相談ください。