夜尿症(おねしょ)とは

夜尿症診療ガイドライン2021では下記のように定義されています。

  • 5歳以上の小児の就寝中の間欠的尿失禁
  • 昼間尿失禁や他の下部尿路症状の合併の有無を問わない
  • 1か月に1回以上の夜尿が3か月以上続く
  • 1週間に4回以上の夜尿を「頻回」、3日以下の夜尿を「非頻回」とする
引用:日本夜尿症学会 夜尿症診療ガイドライン2021

夜尿症は、膀胱や排尿をコントロールする機能の未発達が原因ですので、年齢とともに改善していくことが多く、未就学児の場合はそれほど心配はありません。

小学生以上の場合、夜尿症による恥ずかしさから自尊心の低下や、学校行事などへの参加の制限などの問題につながってしまうこともあります。そのため、夜尿が週に2、3回以上ある場合は、早めに対応することをおすすめします。

西洋医学における夜尿症の治療では、生活指導や行動療法から開始し、効果が不十分な場合は抗利尿ホルモン薬や抗コリン薬、三環系抗うつ薬などによる薬物治療が行われます。

西洋医学における夜尿症(おねしょ)の原因

1.夜間の尿量が多い

引用:ミニリンメルトOD錠 https://find.ferring.co.jp/minirinmelt/aboutmin.php

バソプレシンは抗利尿ホルモンとも呼ばれ、尿を作る量を減らす働きがあります。

バソプレシン(抗利尿ホルモン)は、日中は少なく、夜間に多く分泌されます。このバソプレシンの働きにより、就寝中は尿があまり作られないため、朝までトイレに行くことなく寝ていられます。

小児は夜間にバソプレシンを分泌する機能が未熟なため、就寝中にも尿が作られてしまうことが、夜尿の原因のひとつです。

就寝中に作られる尿を少しでも減らすためには、就寝前の水分摂取を減らすことがポイントとなります。

また、夜尿をされては困るからと、無理やり起こしてトイレに行かせることもよくありません。無理やり起こすことでバソプレシン分泌のリズムが乱れてしまい、かえって症状が長引いてしまいます。

2.膀胱が小さい

膀胱が小さく、十分に尿をためておくことができないことも夜尿の原因となります。

膀胱が小さいタイプの子の場合、日中もおしっこが近いという特徴があります。

膀胱を大きくするためには、おしっこを我慢する訓練が必要です。日中に尿意を感じても、すぐにはトイレに行かず、ぎりぎりまで我慢させます。ただし、無理のしすぎには注意が必要です。

3.睡眠と覚醒の異常

膀胱に尿がたまると、眠りが浅くなり、自然と目が覚めてトイレに行くことができます。

大人に比べて子どもは眠りが深く、そもそも目が覚めにくいものではありますが、睡眠と覚醒の異常が夜尿の原因であることもあります。

膀胱の機能や、睡眠と覚醒は自律神経によりコントロールされているため、不規則な生活習慣やストレスに気をつける必要があります。

夜尿症(おねしょ)の漢方の考え方

腎(じん)の成長を促し、夜尿症を改善する

五臓図

漢方医学では、内臓を肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎(じん)の五臓に分類して健康状態を分析します。

五臓のうち、夜尿症ともっとも関係が深いのが腎です。

漢方医学における腎は、西洋医学的な腎臓や膀胱などの泌尿器系だけではなく、成長や発育、生殖に関係する「生命の根源」としての働きがあると考えられています。腎が育つことで、子どもの身体はどんどん成長していきます。

一人ひとりに得意なことや苦手なことがあるように、腎(じん:生命力)の発育には個人差があります。腎の発育がゆっくり、あるいは腎の発育が弱い子の場合、夜尿症だけでなく、平均身長よりも背が低い、他の子よりも歩きはじめるのが遅かったなどの症状が見られます。

漢方薬による治療では、夜尿を無理やり止めることを目的とするのではなく、不足を補うことで成長をサポートし、自然な夜尿症の改善を目指します。

水分代謝を整え、夜尿症を改善する

気血水

五臓と同じようにからだの不足や滞りを考えるもう一つの視点として、気血水(きけつすい)という考え方があります。

寝る前にお水を飲み過ぎないように言っても、ついつい飲みすぎてしまい、おねしょをしてしまう子は水(すい)の異常が考えられます。

一般的に水分代謝が弱いというと、からだに水が溜まっている状態をイメージします。漢方における水(すい)のめぐりが悪い状態とは、体内の水分のバランスが悪い状態を指し、体内で「必要以上に水がある部分」と、「水が不足している部分」との両方が存在している状態を指します。

水のめぐりが悪いため、からだが本当に必要としている以上にのどが渇いてしまい、水をたくさん飲んでしまう。これが夜尿につながります。

このタイプの子の場合、寝る前に水を飲むなと叱っても、本人が苦痛を感じるだけで根本的な解決にはなりません。漢方薬により水のめぐりを整えることで、病的な口の渇きを改善してあげる必要があります。

心身の不調を改善し、夜尿症を改善する

夜尿の原因は、必ずしも膀胱だけの問題とは限りません。

現代医学では、膀胱機能やバソプレシン(抗利尿ホルモン)の日内リズムの発育不良を中心に考えつつも、冷えやストレス、自律神経の乱れなど、様々な要因も関係していると考えられています。

病気をピンポイントではなく、大きく体質全体で考えることは漢方がもっとも得意とするところです。

たとえば、

食が細く、下痢をしやすい子の場合、栄養を十分にとれていないために腎臓や膀胱の発育が不十分であると考えられます。この場合は、胃腸を丈夫にしてあげることが夜尿症の改善につながります。

緊張しやすい子や、不安を感じやすい子の場合、ストレスにより自律神経が乱れ夜尿症を引き起こしている可能性が考えられます。この場合は、気(き)のめぐりを整え、気持ちを安定させてあげることが夜尿症の改善ポイントとなります。

体温調節が苦手で、熱が体にこもりやすい子の場合、無意識に熱を冷まそうとして水分の摂取量が増えている可能性が考えられます。この場合は、ほどよく熱を冷ましてあげることで、必要以上の水分摂取をする必要がなくなり、夜尿症の改善が期待できます。

夜尿症(おねしょ)を改善する漢方薬

小児の夜尿症には漢方薬がよく効きます。また、夜尿症の改善に用いる漢方薬は比較的飲みやすい味のものが多いため、無理なく服用できている子が多い印象です。

当薬局の夜尿症治療で頻用する漢方薬として、下記のものがあげられます。

  • 六味地黄丸(ろくみじおうがん)
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
  • 小建中湯(しょうけんちゅうとう)
  • 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
  • 五苓散(ごれいさん)
  • 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)

とくに六味地黄丸は、別名を六味腎気丸(ろくみじんきがん)といい、古来より腎(生命力)の不足による小児の発育不良に用いられてきた漢方薬です。

また、小建中湯は代表的な小児虚弱体質の改善薬で、胃腸が弱いタイプの子のさまざまな不調の改善に用いられてきました。

おわりに

明鏡堂の漢方相談では、一人ひとりの自然な発育を大切にしたいと考えております。

強い薬で無理やりおねしょを止めるのではなく、不足を補い、めぐりとバランスを整えることで無理なく発育をサポートできる。これが漢方薬の魅力だと考えています。

夜尿症の体質改善は半年以上かかる場合も少なくありませんが、一緒に頑張りましょう。

まずはお気軽にご相談ください。