円形脱毛症とは

円形脱毛症の症状

境界のはっきりした円形の脱毛が突然起こる病気です。脱毛部分の縁周辺の毛は短く、折れた状態が特徴的です。

急に抜け毛が増えたり、美容院で発見されて気づくケースが多いようです。

自覚症状がないケースが多い一方で、脱毛部分にかゆみや痛み、ピリピリ感を感じることもあります。また、脱毛部分に白斑や紅斑(発赤)があらわれることもあります。

脱毛部分の大きさは10円玉大からこぶし大など様々です。頭部だけでなく、眉毛や睫毛、髭のみ、体毛のみに生じるなど、身体のどの部分にも起きる可能性があります

最も多いのは、脱毛が1か所に起こる「単発型」です。このほか、次々にできて数が増えていく「多発型」や、頭皮全体の毛髪が抜ける「全頭型」、頭皮の横側と後ろ側の生え際から脱毛「蛇行型」、全身にわたって脱毛する「汎発型」があります。また、頭頂部は脱毛するが周辺の毛髪は残る「蛇行型の逆パターン」があらわれることもあります。

円形脱毛症の原因

従来はストレスが主な原因と考えられていましたが、現在では、ストレスは脱毛症状を引き起こす「きっかけ」のひとつとして考えられています。

近年の研究で、免疫に関わる特定の遺伝子との関連が指摘されるようになりました。このような体質的な要因に、疲労やウイルス感染、外傷、出産、ストレスなどのきっかけが加わり、自身の免疫細胞が自分の毛包(毛根周囲の毛母細胞)を攻撃することで発症する自己免疫疾患の一種と考えられています。

円形脱毛症の西洋医学的治療

①外用療法

軽症の場合は、ステロイド外用剤や、血流を促進する塩化カルプロニウム液(商品名:フロジン外用液)を塗布します。

②ステロイド局所注射

月に1回、免疫抑制作用を持つステロイドの局所注射(トリアムシノロン皮内用)を脱毛部分に1cm感覚で注射します。

③局所免疫療法

難治性の場合に、人工的にかぶれを起こす化学試薬、スクアレン酸ジブチルエステル(SADBE)か、ジフェニルシクロプロペノン(DPCP)を使って、かぶれを起こさせることにより発毛を促す治療方法です。

④経口JAK阻害薬

2022年6月に、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬のバリシチニブ(商品名:オルミエント錠)の適応が拡大され、15歳以上で脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合の円形脱毛症に保険適応で使用できるようになりました。

⑤その他

紫外線を照射するPUVA、凍結療法、直線偏光近赤外線照射療法(スーパーライザー療法)、抗アレルギー薬、ミノキシジル外用液などがあります。

円形脱毛症の漢方治療

肝血(かんけつ)を潤し、ヘアサイクルを正常化する

漢方医学では、からだを構成する基本的な物質としての「気血水(きけつすい)」や、内臓のはたらきや内臓どうしの関係を考える「五臓(ごぞう)」という考え方にもとづき、円形脱毛症の原因と解決方法を考えます。

円形脱毛症においては、とくに血(けつ)と肝(かん)が深く関係していると考えます。

気血水
気(き)元気、やる気、勇気の本質
体を温める働き
免疫力、抵抗力を高める
血(けつ)体のすみずみまで栄養を届ける
意識や思考を正常にする
肌や髪に栄養を与える
生理を正常にする
水(水)粘膜を潤す
関節を滑らかにする
気の流れを整える
五臓図
肝(かん)自律神経を介した機能調節
ストレスに関連
体内の血液量を調節する

月経を調節する
心(しん)心臓や血液循環を整える
意識や精神を正常にする
睡眠に関係
脾(ひ)消化吸収の中心
食物から気を生み出す
血管を丈夫にする
肺(はい)呼吸機能の中心
気を生み出す
体液のバランスを整える
免疫を整える
腎(じん)成長、生殖、老化の中心
水の巡りを整える
泌尿器の中心
中枢神経系に関連
ホルモンなどを調節

漢方医学には、「髪は血の余り」という考え方があります。からだ全体に血(けつ)が十分にあると豊かな髪が生えてくる、逆に血が不足すると髪に十分な栄養を届けることが出来ずに脱毛が起こる、という考え方です。

血は過労や睡眠不足、月経過多、ストレスなどにより消耗してしまいます。漢方では、からだに血が不足した状態を血虚(けっきょ)といいます。

一方、五臓における肝(かん)は、身体のさまざまな機能やリズムを調節するはたらきがあります。円形脱毛症に関連していえば、毛根へのスムーズな血流の調整する、正常なヘアサイクル(毛髪周期)を保つ、免疫機能を調節するなどの作用があります。

肝と血は密接に関わており、血が十分にあることで肝はその調節機能を十分に果たすことができます。

以上のことより、漢方医学では円形脱毛症の原因を下記のように考えます。

  • 血の不足により、栄養が不足し毛髪を作ることが出来ない。
  • 血の不足により、肝の調節作用が乱れ、ヘアサイクルが乱される。
  • 肝の調節機能の低下により、毛髪への血流が乱れる。
  • 肝の調節機能の異常により、免疫機能が誤作動を起こし、自己免疫疾患の症状を引き起こす。

西洋医学においては、円形脱毛症とストレスにはあまり関係がないとされています。しかし、肝(かん)はストレスの影響を最も受けやすい臓器です。いずれにせよ、ストレスは身体に対して様々な影響を及ぼします。こころとからだを一つと考え、全体を大きく捉える漢方医学においては、やはり円形脱毛症とストレスの関係は無視できないものと考えます。

円形脱毛症を改善する漢方薬

円形脱毛症に頻用される漢方薬には、

などがあります。

ストレスが引き金となり発症した円形脱毛症では、肝(かん)の機能失調を改善する柴胡(さいこ)と芍薬(しゃくやく)、血虚(けっきょ:血の不足)の改善作用を持つ当帰(とうき)の配合された、加味逍遥散料加川芎地黄や抑肝散料加芍薬黄連が適しています。

ストレスが関与していないと思われる場合は、「髪は血の余り」の考えにもとづき、血虚の改善作用に優れる当帰飲子や四物湯が適しています。慢性的な疲労感がある場合は、血の不足だけでなく、気(き:生命エネルギー)の不足もあると考え、気と血を同時に補う十全大補湯や補中益気湯が適しています。

おわりに

現代医学(西洋医学)における円形脱毛症の治療は日々進歩しており、選択できる治療の幅も広がってきました。

一方で、漢方医学は現代医学ではなかなか対処の難しいストレスや、毛髪の原料となる気血を補うことを得意としています。

現代医学と漢方医学に優劣はありませんが、当薬局では円形脱毛症の症状以外にも、慢性的なストレスや疲労感、胃腸虚弱、月経不順、冷えなどの全身的な不調がある方は漢方の方が適していると考えています。

円形脱毛症は生命に危険が及ぶ病気ではありませんが、QOL(生活の質)に大きな影響を及ぼす病気です。

まずはお気軽にご相談ください。